2013年10月27日日曜日

今日のソ連邦  第9号 1987年5月1日


10月の天気は台風が何度も来て荒れ模様でしたが、なんとか更新であります。前回と号数が飛んでますが、まぁ、これが平常運転ということで。

表紙は西シベリアのケメロボ州で生産されてる装飾盆をドヤ顔で披露している職人さんです。ソ連でこの手の民芸品というと、モスクワ近郊のジョストボ村で作られている「ジョストボ塗り」が有名なのですが、こちらはそのシベリア版ともいえる製品。
実際、ソ連でも「ジョストボ塗り」と間違えられることが多いのですが、シベリア特有の植物をモチーフにするなど独自色も打ち出していて、最近はライバルとして台頭してきたのだそうです。
生産元は民芸工場「ベスナー」で、職人やデザイナーはケメロボ第65職業技術学校の卒業生が多いそうです。
今号では、このような企業製品や体制の変貌を伝える内容が目立っています。
キーワードは「経済の民主化」。
統制経済のソ連では各企業を所轄する省庁の権限が強大で、既得権益もあります。そうした省庁主導の官僚主義を「省の独裁」と批判し、企業の独立採算制を高めて、なんとしてでも経済をV字回復させようという、意気込みとも焦りともつかない熱意が紙面のあちらこちらから伝わってきます。
とはいえ、ノウハウも経験もない国営企業が、いきなり市場経済&独立採算でいけと言われても無理なわけで、ソ連の経済政策は次第に迷走していくことになります。

そんな中、特集されているのは「工場長を公募で選ぶ」というユニークな試み。品質低下にともなう業績悪化に悩まされているラトビア共和国のマイクロバス生産工場「RAF」の新たな工場長を選挙で選ぼうというのです。
これは工場で働く人だけが対象ではなく、外部の人でも応募できるというもの。コムソモリスカヤ・プラウダ紙に工場の現状を報道してもらい、記事には申込書も添付するという方式です。

フタを開けてみると立候補希望者は実に4000名以上。
顔ぶれも様々で、別の工業生産合同の総裁や技師長、博士号候補の学者や30才の若き歴史家、裁縫店に勤務する18才の女性なども。ちなみに最年少は15才の女子中学生! もしその子が本当に工場長になったら、なかなか夢があるというか、萌えるというか。

残念ながら、実際に立候補できたのはコムソモリスカヤ・プラウダ編集部内に作られた有識者&工場の代表者による選考委員会で絞られた20名で、予備選挙を経て、5人になりました。
記事には工場長の執務室の写真がありますが、これはソ連の一般的な管理職の部屋。横長の机の前に長テーブルがT字型にくっつけられ、簡単な会議スペースになるというものです。
軍や警察、KGBや共産党幹部なども家具のクオリティーや電話機の数などに差があるぐらいで、基本的には同じです。ただし、本当に偉くなると会議スペースが別に用意されるのはいうまでもありません。
で、肝心の開票の様子ですが、なんとも言えない手作り感。
どうみても黒パンとかを入れておくバスケットが投票箱です。結果は記事の中ですでに明らかになっていますが、まだ新しい工場長が決まったばかりだというのに、この企業の前途には成功が約束されているかのようなトーンで終わっています。
今、この会社がどうなってるのかは、調べてみないことにはわかりませんが、存続しているとして、このあとにどんな運命をたどったのか、興味深いところです。


次は科学技術の話題。
中央アジアのガス田で発生した火災をわずか2秒で消火する爆発技術が紹介されています。ノボシビルスク郊外にある学術研究都市アカデムゴロドクの流体力学研究所の技術です。
彼らの研究対象は幅広く、宇宙船の外壁をスペースデブリから守るための研究に役立つ人工隕石の衝突実験施設「スポロフ(稲妻)」を開発したりしています。

また、金属加工技術も重要なテーマです。
厳寒にさらされるシベリア鉄道では、レールのポイント部分にある轍叉はあっと言う間に消耗し、3~4カ月に一度というハイペースで交換しなくてはいけません。この寿命を伸ばそうと、爆発を応用した装置が開発されました。
強烈な衝撃が金属の構造を変化させ、轍叉の寿命を2倍に伸ばすことに成功したのだそうです。

具体的には爆発の熱と衝撃が異なる金属材料を結合させ、化学的強固さと耐熱性、さらには優れた熱伝導性と絶縁能力を与えるのだとか。この技術を応用すれば合金を作る時の電気炉に使う触媒の銅を節約することも可能なのだそう。
最終的に装置はセラミックスとブロンズを結合させた「メタルセラミックス」を開発するきっかけになり、新素材は航空機エンジンの部品に使用されているそうです。



でもって、次の記事も科学技術ネタ。
水中作業ロボットや電気自動車、風力や太陽熱を利用した再生可能エネルギーの利用、水耕栽培などなど。特に、水中ロボはなかなか味のあるデザインです。

こうしてみるとソ連も当時からやることはやっていたわけですが、それがどうにも実際の産業に結びつかないという問題も見えてきます。
他にも宇宙ビジネスの記事などがありましたが、共通してるのは、とにかく自国の得意分野でなんとか外貨を稼ごうという、なりふり構わぬ、それでいて不慣れでぎこちないソ連流ビジネスの黎明期の様子です。

最後はソ連の共和国紹介から「モルダビア共和国」。
現在のモルドバ共和国です。ソ連の南西部に位置し、ドニエストル川とプルート川に挟まれた小さな共和国。肥沃な土地に恵まれ、ブドウが30種類ほど栽培されており、ワイン作りも盛んです。
モルダビア人は黒い髪、浅黒い肌、黒い瞳が特徴。
男性の民族衣裳はゆったりとした長い上着に白く細いパンツを組み合わせ、色のついたウールか革製のベルトをしめると、これに小羊のなめし皮で作られた帽子をかぶります。一方、女性は飾りのついた白い上着。ウールのスカートにベルト、頭はショールかヴェールでつつみます。
ちなみに昔は男性は片方だけにイヤリングをしました。もし家族の中で死んだ子がいた場合、その後に生まれた子供には「丈夫に育つように」と、こうしたまじないをしたのだそうです。

また、ブドウの蔓をくわえた白い羽根のコウノトリは、モルダビアを代表する伝説です。
昔、モルダビアのとある城砦がオスマン・トルコ軍に包囲されていました。城砦は堅固でしたが、水や食糧が尽き、もはや敗北は時間の問題。
その時、猛烈な強風が吹き、包囲していたトルコ軍はあわてて地面に伏せます。しかし、それは嵐ではなく、数千ものコウノトリの群れだったのです。コウノトリは皆、くちばしにブドウの枝をくわえており、城砦内のモルダビア兵に次々とブドウの房を落としていきました。
飢えと渇きに苦しんでいた兵士たちはたちまち元気になり、トルコ軍をやっつけて国を守り抜くことに成功したといいます。実際のモルダビアでも料理などにギリシャやトルコの影響が見受けられ、往時をしのぶことができます。

今回はこんな所で。
でわでわ~。

ゲームラボ(三才ブックス)でも鋭意、連載中です。こちらよろしく~。